「今日が誕生日?」
古泉の言葉に俺は胡散臭げな視線を向けて確認のための言葉を発する。
世間一般では一応春の長期休暇中。
旧暦では卯月と表する月の朔日。
今日は四月一日だった。
なんでこんな休みの日にこの男と二人きりで顔をつき合わせているのかというと、まぁ色々あってだ。
長くなりそうだからそれに関しては敢えて割愛する。
俺の胡散臭げな言葉に、古泉は肩を竦めてええと笑った。
「それは何か? 俺に対して今すぐプレゼントをよこせとかそう言いたいのか?」
「残念ながら。そういうことでしたらもっと早く言いますよ」
そりゃそうだろうよ。
そんなにプレゼントに執着があるような奴には見えないし、もし本当に欲しいのだとしても、こいつならきっともっと手回しのいいことをするはずだ。
じゃあなんだ、と考えかけてその考えをすぐに放棄した。
古泉の言うことにいちいちそうつっこんでなどいられない。
代わりに「一番遅い早生まれか」と、受けた印象そのままの感想を述べてやった。
三月生まれまでを早生まれと呼ぶのは大抵の人は知っているだろう。
では四月一日生まれも早生まれと呼ぶのは御存知だっただろうか?
早生まれと称される人間は一月一日から四月一日の間に生まれた者をさして言う。つまり四月一日生まれの者は、次の日の四月二日生まれの者と学年が変わってしまうのだ。四月一日は上級生、四月二日は下級生という具合に。
これには民法やら学校教育法やらが関わってくるわけだが、そんな細かい事情ははっきり言ってどうでもいい。
一番遅い早生まれ、とはつまり。
「ほとんど一つ年下みたいなもんじゃねえか」
四月二日生まれとは言わないが、四月生まれの奴から言わせればほとんど年下みたいなものだ、四月一日生まれは。
なんっかむかつくな。
自分より年下というわけでもないのに、自分より遅い誕生日で、勉強も運動神経も身長さえも負けている。
その事実がなんだかとってもむかつく。
古泉の胡散臭いあのニヤケ笑顔がそれを殊更増長しているとも言えた。
八つ当たりの一つでもと思って口を開こうとして、だが先に古泉の方がまた一つとんでもないことを言った。
「僕がいつ、あなたと同い年だと言いました?」
─────確かに。
この一見人の良さそうなSOS団副団長殿は涼宮ハルヒを監視するために機関なるところから派遣されてきた超能力人間であって、一般ピープルではない。
年齢詐称くらい、あっても不思議ではない。
本当は何歳なんだ、と考え始めたところで古泉が小さく笑い声を割り込ませてきた。なんだ、と顔を上げると古泉はその笑いを少しこらえるようにして「いえ」と手を振った。
「今日が何の日かおわかりですか?」
自分の誕生日だと言ったばかりじゃないかとツッコミを入れると「そうではなく」と古泉は笑った。何がそうじゃないんだ、と言う自分の前で、古泉はもったいぶるように一拍おいて口を開いた。
「エイプリルフール、ですよ」
清々しいほどに爽やかな笑顔で古泉がそう宣う。
エイプリルフールとは、【四月一日の午前中は、軽いいたずらでうそをついたり、人をかついだりしてもとがめられないという風習。】だ。辞書によれば。
つまり俺は嘘をつかれた、ということになる。
脱力と怒りがないまぜになった顔を向けると、古泉は更に笑顔になって。
「さて、僕は今いくつ嘘をついたでしょう?」
なんて言いやがった。
表情の読みにくい笑顔は完璧なまでに古泉の顔に張り付いて離れる気はないらしい。
答えが全くわからない。
俺はため息を吐いて解答することを辞した。
付き合ってられんと思ったからだ。
白旗をあげた俺に結局古泉は解答をくれはしなかったが、四月一日が誕生日だというのは案外本当のことなんじゃないかと思った。
ウソツキの日、だからな。
これ以上に、こいつに似合う誕生日なんてない。
我ながら勝手な理屈でそう思った。
...080401