ハルヒと朝比奈さんと長門がミーティングをする、と出て行って取り残された俺は、早速特訓を開始せねばならないらしい。何しろ、古泉がやる気満々で笑っている。
笑っているのはいつものことだが、心なしかそんな類の顔のような気がする。
―――実に嫌な感じだ。


銃の重さと意味するもの 2


しかし、特訓開始とは言っても、普段の俺たちは学校で座学を受けている身だ。それに加えて合同基礎訓練を行い身体を鍛えている。そのカリキュラムの中に銃器扱いがあるのだ。基礎訓練の中には少人数チームで動く時間がありその内容は多岐に渡るのだが、今年はその中に射撃のチーム戦が組まれていた。
全体授業終了後から就寝時間まで一応の自由時間が割り当てられているが、大抵はその後チームを組んでる連中と集まって行動することが多い。チーム戦があるとなれば気合を入れるのは俺たちだけではなく、当然他チームにもいえることだ。そのためか、普段は申請が通ればある程度融通を利かせてくれるこの射撃訓練場も試験が近い今は不公平にならないよう使える時間がしっかり管理されていて、そのうえ弾の数も決まっている。

こんな状況下で確実に成績を上げるための特訓とは如何ほどのものなんだ。

――そうハルヒに聞こうと思ったが恐ろしくてやめた。無理難題を提案されてはこちらの身が持たない。そう考えると、オールマイティの古泉にマンツーマンでの特訓を命じられたのはまだ良い方なのではないかとも思えるようになってきた。
さて、貧乏くじを引かされたこの副団長様は一体どうするつもりなんだろうな。
訓練場を使える時間は残り少ないぞ。

「そうですね……まずは、あなたの腕前を見てみないことには始まりませんのでやってみて頂けますか。」
「撃てばいいのか?」
「はい。 今残っているのは何発ですか?」
「装填されてるのは残り3発だ。あとは……ひぃふぅみ……28、だな。」
「おや。皆さん、少しずつ残されているのですね。」
「そうだな、そういやいつもよりペースがゆっくりだった。多分、お前が来るのを待っていたんだろうよ。」
「そうですか。遅れるので撃ち切っても構わないと伝えておいたのですが…後でお礼を言わなければなりませんね。
これだけあれば今日は十分ですから。」
「……は?」
「時間が勿体無いですね、では早速お願いします。まずは、今銃に残ってる弾を撃ち切って下さい。
流れを見たいので、その後は弾を込めるところから全弾お願いします。」

ちょっと待ておい。さらりと流してくれるが、ハルヒに私達の分も使っていいわとは言われたものの30発も残ってないんだぞ?つーか、そもそも残弾は殆どお前の分だ。それをいきなり全部撃ち切れって……俺が言うのもなんだがこれは特訓じゃなかったのか?アドバイスも何も無しかよ、と言いたげな俺に気が付いたのか、古泉はにっこりと笑い返してきた。
顔が近い!周囲の発砲音で声が聞こえにくいのは解っているが、気色悪いから離れろ!!

「後ほどご説明しますから、とりあえず今はいつも通りにやって頂けないでしょうか?」

勢いよく身体を押し戻すと、そのまますっと身を引いてそう言った古泉が普段よりもほんの少し真剣さを孕んでいたような気がして押し黙る。何か考えがあるっていうんだろうな、こいつには。俺には見当も付かないが。やれやれ、ひとまずはやるしかないってことか。
小さく息を吐く。黙ってイヤーマフを付け直した俺を見て、古泉は俺の後ろに一歩下がった。横目で傍らに常備されているイヤーマフを付けるのを確認すると背を向けて呼吸を整えた。的を見据え、構えた後すっと息を吐いてまずは、一発。続けて二発。そして三発。撃ち切った。そのままの流れで、弾を詰め替える。その間、古泉は俺の手元が見えるように少し身体をずらした後、微動だにしていなかった。口出しも一切してこない。
……普段喋る奴が黙ってるっていうのは案外落ち着かないもんだな。しかも、じっと手元を見られている視線を感じるって言うのは居心地が悪い。さっきまでハルヒの奴にも見られていたが、それとは種類が違うと感じるのは古泉が俺の何かを「見抜こう」としているからだろうか。試験時にもこんな視線を受けると考えれば、慣れるしかないんだろうな。

「――どうかされましたか?」

何も考えずにお願いします、と聞こえて頭を振る。それが難しいんだろうがと叫ぶのは簡単だったが古泉の言うことは正論だ。弾は残り28発。余計なことを考えて撃てるほどの余裕がないことは、俺自身が一番よく知っていた。
バン、バァン、と周囲の音と混じって聞こえる自分が打ち出す弾の音。腹の底に響いてくるような重低音と連続発砲の衝撃に、やっぱり何度やっても慣れないな、と思う。全弾撃ち切った後に襲ってきた疲労感と微かな手の痺れを誤魔化すように大きく息を吐いた。

「………終わったぞ。 って、急に寄るな、ぶつかるだろうが。」
「すみません。ちょっと失礼します。」
「は? ちょ、おい、なにすんだ!!」

肩をぐるりとひと回ししながら古泉の方へと身体を向けると、いつの間に距離を詰められたのか真正面に真顔で奴が立っていた。…ん?真顔?こいつ、さっきから笑顔を忘れすぎやしないか? なんてどうでもいいことを思ったのが悪かったらしい。突然俺の腕と脚を順に触れてきた古泉を押しのけるのに失敗した。
触られる度に反射的に手と足が出てしまいそうだったのを何とかこらえて、しゃがんだままの古泉の頭を鷲掴みにする。お前、撫でるように触ってきたと思えば思い切り掴んだりすんな。男に触られて喜ぶシュミなど断じてないぞ、俺は!! 帽子が邪魔で上手く掴めなかったがそれなりに痛かったようで、古泉が小さく唸る。だがその面は笑顔なので痛くないと判断しよう。痛いなら痛いなりの面をして欲しいものだな。
ふと、立ち上がろうとする抵抗を感じて手を離す。立ち上がった古泉は制服の埃を払いながら解りましたと言った。
……悪いが俺にはセクハラされたこと以外さっぱりわからん。 簡潔に説明してもらおうか。

「どうやらあなたは左右のバランスが悪いようですね。」
「……そうなのか?」
「ええ。触ってみても筋肉のつき方が違います。基礎訓練の際には左も少し意識して行うようにしてください。すぐには無理ですが、少しずつ調整できるでしょう。」
「…解った。」

いつものように突拍子も意味もない長口上が始まると思っていたが、簡潔でしかも真っ当な意見にぽかんとした。自分でもよく解ってないのをあれだけで気がつくっていうのが上と下の違いってやつか、全く。どこまでも嫌味な野郎だな。
しかし、成程なと素直に思って頷く。それくらいは出来るだろう。
先ほど確かめられるように触ってたのもそのためかと思えば納得もする。が、それはまぁ別にいいとしても、その前に何か言えよと言いたくなるのは理不尽かね? 

びりっと音がして目をやると、古泉が手帳を一枚破いて何かを書き付けている。
これを、と渡された紙には……お世辞にも読みやすいとは言えない字で何かが書かれていた。辛うじて解ったのは、時間と文字の隣に書き付けられている数字だ。どうやら一日の予定表らしいというのは予想できるが、肝心の中身が読めないと意味がないんじゃないのかよ。

「後できちんとデータでお送りしますから、今はこれで勘弁してください。紙があったほうが説明しやすいものですから。」
「……まぁいいさ。で? これは? 予定表に見えなくもないが。」
「ご名答です。これから試験までの一週間、僭越ですが僕があなたの予定を立てさせて頂きました。」

この短時間でよくぞそこまで考え付くものだな。呆れと感心半々でもう一度紙をよく見てみると、この乱雑な字が何を形どってるのか想像できて内容がわかってきた。起床から授業終了までは通常通り。夕飯も入浴も就寝時間も通常通り。
ただし、授業終了後から入浴までのスキマと、夕食から消灯までのスキマを見事に埋めてやがる。
休憩時間は当然ありませんってかおい。

「筋トレはやりすぎても意味がありませんからね。ただし、走りこみは毎日1時間このメニューで。それから、訓練場を使える時間を調整しましょうか。本当ならば入浴と夕食の時間をずらしたいところですが、寮で共同生活を行ってる身としてさすがに無理な話ですからね。空撃ちと実弾を一日交互に行って、最終日に仕上げとしましょう。
ああ、もちろん僕も一緒にやりますよ。それならば不公平ではないでしょう?」

ね?と首を傾げられても可愛くない。ご要望があれば明日までにまた考えてきますが如何ですか?とか言われてもだな、これに何をどう追加しろってんだ。消化するだけでいっぱいいっぱいであろうことは目に見えてるぞ。俺をお前みたいな万能能力者と一緒にするんじゃない。
溜息?付きたくもなるだろうよ、身から出た錆だとはいえだ。

「……今日はこれからどうするんだ。特訓しようにも弾は撃ち切ったし、そろそろここを空けなきゃならない時間だ。」
「今日はあなたの現状を把握するのが目的でしたから。問題はありませんよ。」
「――と、いうことはこれで解散か?」
「まさか。」

だろうな。

「体育会系は僕のイメージではないのですが、涼宮さんの希望となれば話は別ですからね。」
「………だからつまり?」
「走りましょうか。ご一緒に。」

ああ、見るものが見れば爽やかと形容できるほどすがすがしい笑顔だな。 眉間に皺が寄ってるなんて百も承知だ。
――解ってる。お前を引っ張り込んだ手前俺がサボるわけにもいかんだろう。
それくらいの自覚はあるし、今更逃げ出しやしない。 だからな。

だから、いい加減この手を離せ…!!


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全3話分の筈が、セクハラ古泉を導入したら1話分話が引き伸ばされる羽目に…!(計画性を持て)
もちょっとセクハラ度を上げときゃよかったかもと思ったりこれのどこが射手座なんだろうと思ったり……(逃走)