響く声


とある喫茶店で聞こえた会話がやけに耳に残っている。
珍しくも男女別行動だった本日のSOS団恒例探索の合間に立ち寄った喫茶店で、数人の女の子たちが窓際奥の席に座っていた。 聞き耳など全く立てるつもりはなかったのだが、自分たちが座っているのはそのすぐ前の席だったので致し方ないと思う。
(あまりいい趣味ではないが結構な音量で話していたし許されるだろう)
目の前で優雅に紅茶なぞを飲む男の話には適当に相槌を打ちながらそんなことをぼんやりと考えていた。


彼女等の話は要約するとこうだ。

『どんな声が腰にクるか』

真昼間からしかも割りと大きな声でそんな話題で良いのかと思わずつっこみを入れたくもなったが、 年頃の女性がどんな声が好きか、どんなことを言われたら心臓を鷲づかみにされそうになるとか、 やっぱりちょっと興味があったので聞き流せなった…というべきか。
……いや、この際だからもう言ってしまおう。他言無用で頼む。自分でも非常に不本意で不愉快極まりないのだが、 彼女等の言う『腰にクる声』の定義や気持ちがなんとなく分かってしまったのだ。
高すぎず低すぎず、普段は嫌となるくらい聞いている声なので意識したことはなかったが、ふと気がつくとやけに耳に残っているたちの悪い声を知っている。
何度も言うが、非常に不本意で不愉快で情けなくみっともない上に相手が調子に乗るのが分かりきっているので絶対に口には出さないが、 その声は意外と……好き……だったり…するのだから手に負えないと自分でも思っているので突っ込みは受け付けない。 つか無理だ。突っ込まないで頂きたい、切実に。

途中でぼんやりしている自分に気が付いたのか、そろそろ出ましょうかと促された。
集合時間前の良い頃合だったので逆らわずに席を立つ。
目の男が席を立ったときに、小さな歓声が後ろの席から上がり、ああやっぱり女性ウケするのだなこいつはとしみじみ感じてしまった。 何も言わず伝票を持って会計に行く姿も様になるのだから腹が立つことこの上ない。
――僻みなのは分かっていたが。
(奢ってもらう約束だったのであいつが伝票を持っていくのは当たり前なのだが、何かこう……むかつく)
会計が終わるのを隣で待ち、行きましょうと言われ喫茶店を後にした。



ところで、そのときの俺はそんなにも顔に出ていたのだろうか?
からんころんと喫茶店のドアにかけてあった鈴の音が響くと同時に、8cm高いところからくすりと笑われた。
そういや、この8cm差も非常に腹が立つ一因ではあるな。
思い至ってちょっと不機嫌になってしまった。

「……なんだよ。」
「いえ、すみません。」

何でもありませんよ、と尚も笑いながら言われても説得力がない。
気になるから言えと睨み付けると、そう言われるのが分かっていたかのようににっこり笑っていた。

「先程の会計のときもドアをくぐる直前にも、我々の後ろの席にいた女性たちを見ていたように思えたので
 どうされたのかな、と思っただけですよ。」

思わず唖然とする。こいつ、何でそんなことまで気が付くんだ。
確かにちらりと視線を向けたには向けたが、お前は会計をしていたし出るときだって俺の前にいたのだから 俺の顔や視線なんて見えてるわけがないだろうよ…! だが、そんなことをこいつを相手に言ったところで、あなたのことなら分かりますよ 等と言われるのは目に見えていたし勘弁したかったので渋々口を開いた。

「…お前が俺に声をかけたとき、“今の声、聞いた?”って後ろの人たちが話してたのは聞こえたか?
 会計をしているときにもこっちをみて囁いていたから、随分とお前の声が好きなんだな、と考えていただけだ。」
「声、ですか。」

まぁお前の場合は声だけじゃないだろうがなとなげやりに付け加えてやると、最近では珍しくもなくなったきょとんとした顔を見せた後、緩やかに微笑む。 ああ、この顔は偽者じゃないなと考える辺り思考回路がちょっとまずい気がする。
その顔で 『ありがとうございます』などと言うな、返答に困るだろうが。
つかそれは彼女たちに言え、俺に言っても意味がない。
そう言ってやろうと思ったのだが、続けられた一言に耳を疑った。

「僕としては、あなたの声の方が好きだなと思いますよ。」
「…は?」
「遠くから聞いてもあなたの声だとわかりますし、よく通る良い声だと思いますが。」
「……そりゃどうも。」
「でも、やっぱりアノ時のあなたの声が一番好きですね。腰にきます。」
「は?」

…………ちょっと待て、今こいつなんて言った?ああ、繰り返さんでもいい!繰り返すな!
爽やかにど変態な台詞をぬかしやがるのでスルーするところだったじゃねぇか!
いや、スルーすべきだったんだよな、何故聞き返したりしたんだ俺!

「彼女等のお話はそういうことだったでしょう?
 ですからそういう意味で、僕が好きな声をお答えしたつもりですが?
 あなたも、僕の声を気にしてくれていれば尚嬉しいですね。」

ああくそ、やっぱりか、お前さっきの会話をずっと聞いていやがったな?
そ知らぬ振りして会話を振ってきたくせに、ちゃんと聞いてやがったな?
俺が彼女等を何度か見たその理由にも思い至った上でその笑みとともに口に出しているということだな?
確かに上の空で会話をしていた自分が悪いんだろうよ、その意趣返しだってのも気が付いたさ、さすがにな!
今更とぼけようったって手遅れなんだよ。
ここがお前の部屋だったら容赦なく関節技でもなんでも決めてやれるのに、命拾いしたな。
あとで覚えてろ。

「あとで、よろしいのですか?」

不機嫌丸出しの八つ当たりも承知の上で睨みつけてやったというのになんだその珍回答は!
さっさと前を歩く俺のすぐ後ろに余裕を持ってついて来るこいつが本気で忌々しい。
あああああもう、こいつ嫌だ!
だれかこいつを何とかしてくれ、手に負えない…!!
そんな奴の声が好きな自分が一番手に負えないのは分かっているが……あああ頼むから古泉、
耳元で囁くのは止めてくれ…!






往来のど真ん中で何をやっているのか気が付いてない恥ずかしい二人(笑) ←古泉は確信犯。
大騒ぎしながら集合場所に戻ったキョンをハルヒが容赦なくツッこめばいいと思う!
あ、一応この二人できてたりします(遅い)