視線の先に


SOS団の活動終了後は、5人まとめて並んで帰るのが常だ。
まあ、大体が女子3人が前を歩きその後ろを男子2人が歩くのであるが。
他愛もない会話に花を咲かせながら軽やかに笑う女子(長門も心なしか表情が柔らかく見えるときがある)を見るのは、 健全男子として心温まる穏やかな夕暮れ時だ。 そんな時間を過ごすときもあれば、分かれ道までの熾烈な戦いが繰り広げられたりすることもある。
知っているだろうか?地域によっては呼び方はさまざまあるようなのだが、じゃんけんで負けたものが一定距離まで 皆の荷物を全て持って運ぶゲームだ。だがコレは度を過ぎると実になかなかしんどかったりするんだ。何せ5人分の荷物だ。自分の鞄の中身はほとんど入っていないも同然なので カウント外にしても、律儀に教科書ノートに辞書に体育着にと毎度もって来る奴もいるわけで……ああ、前置きが長くなったな。
現在その熾烈且つ過酷なこの戦いが繰り広げられている真っ最中であり、目下5連敗中だ。
俺が。




「手伝いましょうか?」




手ぶらで俺の隣を歩いている古泉にじろりと視線を向ける。
その無駄にいい面でちっとも申し訳なさそうではなくむしろこの状況を楽しんでます、的な笑顔を向けられて 嬉しいと思うのか?喜ぶと思ってるならお門違いだ。頭冷やしてこい。
俺は今それよりも現在声を大にしてお前に言っておきたいことがある。
何でお前は部室でのアナログゲームはてんでダメなくせにじゃんけんは馬鹿みたいに強いんだ?
女性にこんな重たい荷物を持たせるわけにはいきませんから、と半分肩代わり(負けは負けだから、ちゃんとやるわとハルヒが 主張したのでせめて半分ということになった)することはあっても負けたことはないよな?
はっきり言って俺は強い方ではないが、そこまで弱くもないぞ。
じゃんけんでヤマを切り抜けてきた時もある。故に、ここまで負けるのは非常に納得がいかない。


「納得がいかないと言われましても……まぁ、理由があるにはありますがあなたは怒ると思いますよ?」


もうすでに怒っているのだから今更だ。
余計な気を回す暇があるなら分かりやすく答えていただけると嬉しいんだが、
まずは笑顔のまま肩をすくめて小さい子をあやす様な表情でこっちを見るのを止めてくれ。


「あなたを見ていれば、分かることなんですよ。」
「回りくどい」
「…では、あなたがじゃんけんをするときにはある癖があります、とだけお答えしておきましょう。
 あまり詳しく言ってしまうと、涼宮さんに叱られてしまいそうですからね。」


だから、内緒ですよと指を口元に持っていってウィンクしてくるのは勘弁してくれないだろうか。
ウィンクをそこまで綺麗に決められる奴も少ないとは思うし様になっていると言うべきなんだろうが、嬉しくない。
それより………………それはつまりなんだ?
俺にはじゃんけんをするときに癖があって?その癖で次に何を出すかが分かる……ということか?
いかさまだろ!!


「いかさまとは違いますよ。鋭い洞察力と一瞬の判断力をもってして導いた結果です。
 それよりあなた、ちゃんと分かってますか?この意味。」
「…何をだ。」
「本人が知らない癖を知っているくらいにあなたを見ている……ということですよ。彼女も、そして僕も…ね。」
「………!」
「その理由は、ちゃんと分かっているでしょう?」






きっと、そのときの俺は先程そう扱われるのを嫌がった子供のような顔をしていたに違いない。
情けないことに、身体も硬直し、動けなくなってしまっていたのを遠くで感じていた。
言い聞かせるように俺の耳元で囁いていた古泉が少し距離をあけ、俺を見たときの顔もきっと忘れられない。
ひどく柔らかい微苦笑を湛えながら、仕方のない人ですねと小さく呟いたのが聞こえた。
だが、その一瞬の後はいつもの食えない顔をした古泉がいて、何事もなかったように振舞う。
地面に落としてしまっていた荷物の半分をその手に取ると、「随分距離をあけてしまいましたね。少しお持ちしますので急ぎましょう。」 といい俺の腕をぐいと引っ張るので、合わせて走らざるをえなくなった。




ゴールまでは残り数百メートルといった距離だったが、当然ながら女性陣は先についておりご立腹だった。
途中でバランスを崩して荷物をぶちまけてしまい、拾っていたら遅くなったのだともっともらしい嘘をさらりと ついた古泉に、大変でしたねと朝比奈さんが同情してくださったおかげでその場は何事もなく解散となった。 荷物をぶちまけるという失態を犯したことになった俺は明日の昼に全員に飲み物を奢ることとなったのだが、 今現在のこの精神状態を追求されるよりはその方が余程マシだったので、文句も言わず頷いた。




好意をもたれるのは、素直に嬉しい。
それが例え、同姓であってもだ。
SOS団が発足してからというもの、珍事件怪事件大事件に巻き込まれてるおかげか多少のことでは驚きもしなくなった。 困惑はしても、きちんと考えてやろうという気構えもちゃんとある。
あちらが見ているのだと言うのであれば、こちらも見ていることがあるのだということをお前はちゃんと分かっているのだろうか? 決定的な言葉を言わないで濁して、俺に何かを期待して。…ずるいのはお前じゃないか。
はっきりさせるわけにはいかないと言うのであれば、もっと徹底的にして欲しい。
何かを期待しているのであれば、もっとはっきりして欲しい。
そうすれば、こんな中途半端な感情を抱えずにすむのだ。何かがつっかえたままという状況ははっきり言って精神衛生上宜しくない。
大きなため息をつくくらいは許して貰いたいものだ…。




なあ古泉。
お前、この手の話をするとき目が笑っていないのに気が付いていないのか?
それが分かるくらいには俺だって見てるんだぞ、馬鹿ったれ。






基本的に、本人の口から聞いたこと以外は信用しないキョン。
でもちゃんと互いに意識してますよという話(同じベクトルかはちょっと置いといて)←置くな