何より恐ろしいのは、トンでもない『非日常』でも続いてしまえばそれはもはや『非日常』ではなく『日常』だということだ。
色々なことに慣れきっているのを自覚している俺ではあるが、それでも驚くことはまだある。
無い方がおかしい、そう思いたい。

――というわけで。
これは一体どういう状況なのか、誰か説明してくれ。


非日常の中の日常




今日の俺は掃除当番という一週間に一度巡ってくる仕事…(ハルヒの奴も同じ当番だった気がするのだが、気が付いたらいなくなっていたな。)…に勤しんだ後、部室に辿り着いた。扉を開ける前に軽くノックをする。 いつぞやノックをせずに足を踏み入れたところ大変な目にあったからだ。どうぞ、と古泉の声が中から聞こえる。 …ということは、朝比奈さんが着替えの最中ではないということになるので、何の気構えも為しに扉を開けたのだ。扉を開けた先に待っているのが地獄だということを、全くもって失念してな。
部室の中には、いつもの定位置で本を読む長門と、すっかり馴染んだメイド服でお茶をいれている朝比奈さん。 ………………そして、古泉。 喜べ、本日一番の変な人大賞はお前だ。


「……お前、なんだその青いのは……。」


扉を開けたまま、呆然と立ち尽くしていた俺を誰が責められようか。
SOS団で2人しかいない男子の片方である古泉は、盛大な衣装に身を包んでいた。全身のテーマ色が青だと分かるゴテゴテの、しかもどっかで見たことある衣装だ。そうか、これがコスプレという状況なんだな。刀のオプション付きでノリノリだなぁ、おい。


「あなたのもありますよ?」


少し正常になった頭でそんなことを思っていると、古泉は楽しそうな笑顔で何かを持っていた。 嫌な予感がする。 ぽん、と両手に乗せられたのは一着の衣装。現在古泉が着ている服とは真逆というべきテーマ色。


「赤!!」
「ええ、僕が青であなたが赤だそうです。」


幾度となくコスプレをさせられてきた朝比奈さんの状況から見ると、これらの衣装を用意したのが我が団長であるということは想像に難くない。つか、それ以外ありえない。そして、ハルヒ専用イエスマンである古泉が「着て」と言われて断るわけもない。それゆえのこの状況だというのは分かった。そして、今度は俺がこの手にある衣装に着替えるよう命令が出されているのだろう。おずおずと俺を見る朝比奈さんや、0円スマイルを浮かべる古泉が「お願いします」と訴えているのがわかるようになった自分を嘆きたい気分だ。…………譲りたくはないが、一万歩譲ってこれを着なくてはならないとしよう。 だが待て。待てっつの! 着るにしても着ないにしても聞きたいことがある!!


「なんでしょうか?」
「…ていうかだな、コレ中は? 何着るんだ?」
「何も。」
「………は?」
「ですから、何も。」


……そう、今俺の手の中で暖められつつある衣装は赤いコートと焦げ茶のパンツにオプションの銃となにやらどでかい剣だ。それだけだ。古泉の衣装と比べても明らかにおかしいだろう?つっこみどころが満載過ぎてどっから突っ込めばいいかわからん。そして、こいつはなんて言った?無いといったか? コートの下に着るべきインナーが、無いと言ったか? その状態で俺に着ろと? 部室で裸コートって何のプレイだ!!! ああ忌々しい…!!なんだその楽しそうで堪らないといった変態面は!! 笑うのをやめろ!!


「すみません…、抵抗されるあなたが可笑しかったものですから。ですが、早く着替えてしまわれた方がいいと思いますよ。 気持ちも多少……いえ、正直とても分かりますが、あまり時間も無いことですしね。」
「何で俺がこんなのを着てやる義理がある。」
「それを、涼宮さんが望んでいるからですよ。」
「それがどうした、」
「古泉くん、お待たせーーーーっ!!」


馬鹿馬鹿しい、と言ってやるつもりだった言葉は、後ろの扉が大きな音を立てて開いたことでかき消されてしまった。 おや、時間切れですねと哀れそうに古泉が俺を見てくる。ばたーーーんと、扉が外れるんじゃないかという轟音を立てて入ってきたのは我等が団長であり、この状況の原因である涼宮ハルヒだ。手にはデジカメが握られており、やる気満々、非常に楽しそうだ。


「まさか、デジカメの充電が切れてるとは思わなかったわ。でも大丈夫、予備のデジカメを手に入れてきたからばっちり撮るわよ!」


おい、ハルヒよ。そのデジカメ、明らかに写真部備品っていうシールが貼っている気がするのは俺の目が悪いからか?
びしっとポーズを決めてやる気満々のハルヒがぐるりと古泉と俺の方に方向転換する。
古泉、そして俺へと視線をうつしたハルヒはたちまち非常に不満げな顔へと変化した。


「さて、ちゃっちゃっと……って、なによキョン。あんたまだ着替えてなかったの?」
「着れるか!」
「なにが問題あるのよ。古泉くんは何も文句も言わずに着たわよ? 副団長である古泉くんが着てるのに、ヒラのあんたが着なくていいと思ってんの?」
「それならせめて、もう少しマシなのを用意しろよ。」


視界の端では朝比奈さんがおろおろしてるのが見えたが、すみません。こればかりは。カメラ片手に仁王立ちしているハルヒは言い返した俺をじっと睨む。その次には怒声が飛んでくるものだと思って身構えていると、意外にも 「あっそう。まぁいいわ。」と軽い返事が返ってきた。絶対にもっと騒がしく非難されるとばかり思っていたので拍子抜けする。そして、そこで油断したのが最大の過ちだったのだ。ハルヒの爆弾発言に何の対応も出来なかったんだからな。


「着ないなら………着せるまでよ。」
「…は?」
「古泉くん、手伝って。」
「了解しました。」


は? ちょ、待て古泉、お前後ろから羽交い絞めだなんてなにしやがる!!


「だから言ったじゃないですか。早く着替えた方がいいと思いますよ、って。」


……っ!! お前、耳に吹きかけながら低く囁くように喋るな! いいから離せ!! 残念ながらできませんね、じゃないぞ! ちょ、ハルヒ、お前はのしかかってくんな!! 慎みってもんがないのかお前は!! ネクタイを強く引っ張るな、苦しいだろうが!!
我ながら情けない暴れっぷりだっただろうに、そんなことには目もくれない我等が団長さまに感謝すべきか訴えるべきか。ぐい、と力強く引っ張られ、顔が近づくとこう言った。


「往生際が悪いわよ、キョン。」


………ハルヒの目が据わってる。
ああ、これは一体どういう状況なのか、本当に誰か説明してくれ……!!








ブログ内小話サルベージ 5/9
勢いとノリで書ききったものにほんの少し加筆修正。
タイトルすらなかったんです(笑)  元ネタはこちら→ ゆりのさんの漫画